RESEARCH主な研究

主な研究について

JADECOM-PBRNでは定期的なMeetingで
研究の方向性を定め、
コアメンバーがその活動をリードしています。

ACP普及研究

JADECOM-PBRNを利用した研究の第一弾がACP(アドバンス・ケア・プランニング)普及研究です。
PBRN発足時の投票により決定した研究テーマであり、高齢化が進む日本の地域医療で導入は急務となっています。
本研究では日本のプライマリ・ケア診療所において、コメディカル職員がACPを主導することが実践可能かを調べました。 (AFN-JPC: ACP Facilitated by Non physician clinicians in Japanese Primary Care)
4つのJADECOM診療所所属のコメディカル職員(看護師・ソーシャルワーカー・ケアマネージャー) をACP相談員としてトレーニングし、患者や家族とACP相談を実施してもらいました。
このJADECOM-PBRNならではの地域性やフットワークを生かしたACP研究は、2019年にNAPCRG(North American Primary Care Research Group)という北米家庭医療研究の中心となる学会で発表を行いました。 また2022年には英語論文がJGFM(Journal of General and Family Medicine)から出版されています。

そして、2021年には研究責任者望月と看護介護部三浦が、一般医療者向け書籍も上梓しました。
ACPを地域で実践するためのノウハウを「イタコ理論」などユーモアを交えてわかりやすく表現。地域に溶け込む医療者が実践するJADECOM-PBRNの成果として、ご好評頂いています。

いつ誰がどうやって 地域で実践するためのアドバンス・ケア・プランニング

『いつ誰がどうやって 地域で実践するためのアドバンス・ケア・プランニング』
望月崇紘 サイオ出版 2021年

J-CHIN

J-CHIN(JADECOM Community Health Information Network)とは汎用データベースソフト、 BIツール(ビジネスインテリジェンスツール)を用いた、診療所データの見える化プロジェクトです。

地域医療振興協会が運営する多くの診療所で、電子カルテが導入されており、日々の診療データが蓄積されています。 しかし、協会内でも電子カルテのメーカーが多岐にわたることもあり施設を横断しての診療状況を把握、比較することは困難です。
現状は、データ利用においては紙カルテ時代と同等と言えると思います。データ収集、解析、可視化を自動的に行うツールを開発し、J-CHINプロジェクトを始めました。 電子カルテから直接データを抽出するのみならず、レセプトファイルに含まれる情報を汎用のソフトで解析、抽出し、汎用BIツールで”見える化”を実現しました。

J-CHINの仕組み

集約した情報は診療の質改善(Quality Improvement: QI)の研究への利用や、研究参加施設にフィードバックして業務改善に用いられています。地域医療を熟知する現役の臨床医師がシステム開発・実装を手がけた、JADECOM-PBRNが誇る研究成果の1つです。

診療の質改善(Quality Improvement : QI)

診療の質改善(Quality Improvement : QI)とは​

医療におけるQuality Improvementとは、”医療ケアのばらつきを減らしアウトカムを改善するために、体系的にプロセスと構造を標準化しようとする枠組み” のことを意味します1)

Evidence Practice Gap

臨床研究が一定のエビデンスを伴う成果(例えば大腸がんスクリーニングの有効性など)を発表しても、現場レベルの医療がそれを日常診療に取り入れるまでには相当な時間がかかると言われています2)。 2001年。米国Institute of Medicine(IOM)は“Crossing the Quality Chasm”という有名なレポートを発表し、 “医療と研究の間には深いChasm(溝)があり、溝を埋めるためには、医療現場が質改善に積極的に取り組む必要がある”ことを提案しました3)

日本×診療所医療×QI

日本の医療の質は、平均寿命や乳幼児死亡率などいくつかの健康アウトカム指標において国際的に優れているという評価があります4)が、 一方、質の評価と改善活動は場当たり的で、システムレベルでの医療の質評価体制は未発達であることがOECDのレポートにおいて指摘されています5)。 近年,中〜大規模の病院では病院機能評価機構6)によるQI活動が普及してきていますが、診療所医療の領域には未だ第三者評価プログラムは存在せず、 日本の診療所医療の質とQIは未知数です。青木らは、課題として、医療の質に関する教育機会の不足、電子カルテの質評価における利便性の問題などがあると指摘しています7)

PBRN×JCHIN=QI!?

私たちは、PBRNとJCHINを連携させることで、日常診療で収集可能かつ利用可能なQI活動の実装にチャレンジしています。第一弾として、2020年から2021年に11つのPBRN施設でベンゾジアゼピン系薬剤の適正使用活動を指標として Audit&Feedback ± Coachingという形のQI活動を実施し、実行可能性と効果を検証しました。

2021年から第二弾として、4つのPBRN施設で糖尿病関連の指標を用いたQI活動を試みています。

その他

JADECOM-PBRNでは他にも以下のような研究を鋭意進めています。

  • PJM in NH(Patient Journey Mapping in Nursing Home:老人保健施設における利用者経験調査)に関する多職種活動と研究
  • RPX(Rural Physician Experience:へき地医師経験)に関する調査
  • JADECOM総合診療専門研修プログラム「地域医療のススメ」の専攻医への学術活動支援

1) CMS.gov, https://www.cms.gov/medicare/quality-initiatives-patient-assessment-instruments/mms/quality-measure-and-quality-improvement-
2) Balas EA, Boren SA. Managing Clinical Knowledge for Health Care Improvement. Yearb Med Inform. 2000;(1):65-70.
3) Institute of Medicine (US) Committee on Quality of Health Care in America. Crossing the Quality Chasm: A New Health System for the 21st Century. Washington (DC): National Academies Press (US); 2001.
4) Ikeda N, Saito E, Kondo N, et al. :What has made the population of Japan healthy? Lancet. 2011 Sep 17;378(9796):1094-105.
5) OECD (2015) “OECD Reviews of Health Care Quality: Japan 2015: Raising Standards” https://doi.org/10.1787/9789264225817-en (Accessed 2020 Feb 16)
6) 日本医療機能評価機構,病院機能評価事業 https://www.jq-hyouka.jcqhc.or.jp/
7) Aoki T, Taguchi K. :Third-party Evaluation Program for Primary care Facilities: Situation in Other Countries and Suggestions for Our Country. An Off J Japan Prim Care Assoc. 2018;41(4):179-183.